協業関連

<協業実績>加藤電機×中部電力の声を公開

2018/10/19

「COEは『声』を聞いてくれるイノベーションの場」

Business factory 2018 最優秀賞 加藤電機 加藤学社長×メンター・鈴木亮

右が加藤電機・加藤社長。左が弊社鈴木

昨年のBusiness factory 2017で最優秀賞を獲得した加藤電機。受賞から約半年後の2018年6月には、名古屋市内でビジネスプランの実証実験を行い、現在、事業化に向けて検討を進めている段階です。今年のBusiness factoryの開催にあたり、加藤電機の加藤学社長と、メンターとして伴走した弊社・鈴木亮(電力ネットワークカンパニー ネットワーク企画室 副長)の2人が、昨年の様子を振り返るとともに、COEの意義を語り合います。また、エントリーを考えている企業の皆さんへのメッセージもお聞きしました。

なぜ今オープンイノベーションなのか

― 加藤電機は、1993年からカーセキュリティで業績を上げ、2000年代に入ると通信技術とカーセキュリティで培った技術を元に、子どもやお年寄りの見守りサービスの事業の展開を始めています。昨年のBusiness factoryにエントリーしたのも、そのひとつ「SANフラワー」を軸にした提案でした。そもそも、なぜ加藤社長はエントリーしようと思ったのでしょうか。

[写真]加藤電機の加藤社長がSANフラワーについて語っています

加藤 実は、Business factoryへの参加は、賞が目当てでエントリーしたわけではありませんでした。実証実験でも使われることになった「SANフラワー」という見守りの製品がありますが、そのアンテナのモジュールを提供してくれている企業の方が「こんなコンテストがあって、向いているんじゃないか」と教えてくれたのがきっかけでした。

じゃあなぜエントリーしたかと言うと、単純に弊社の製品、技術を知ってもらいたい、評価してほしいということに加えて、「協力」が欲しいためです。
弊社は1965年に創業した当時は、工場向けのファクトリーオートメーションを製造販売していましたが、バブル崩壊を機に事業転換を迫られました。その時、社長の車が3回も車上荒らしにあったことをきっかけに、当時ではまだ概念すらなかった「カーセキュリティ」の開発・製造販売を開始。今では、車業界では加藤電機といえばカーセキュリティのメーカーとして知られるまでになっています。
これは、もともと私自身が、社会に貢献したいという思いがあったことも関係していると思います。大学院を卒業後、大手メーカーの研究所で素材の研究をしていたのですが、その実用化には30、40年掛かることが分かったときに、もっと直接的に社会貢献できる仕事をしたいと思うようになったんです。そして、そのフィールドとして都合が良いので父の会社に入ったという経緯がありました(笑)。

そして、「SANフラワー」を開発することになった直接のきっかけは1995年の阪神淡路大震災です。ガレキに埋まった人をもっと早く発見できれば救える命があったはず。カーセキュリティから、より具体的に「人を守る」ことに注力するようになったということです。当時は人が常時携帯できるほど小型化・省電力化が難しかったため、カーセキュリティをテストフィールドに開発を進めました。

SANフラワーは、2015年に完成、翌年から販売を開始しました。携帯する「SANタグ」が電波を発信し、「SANレーダー」がその電波を受信し、位置を示します。その誤差は約50センチ。建物の中でも受信が可能です。電波は特定小電力無線を使っているため、届く距離は平地で見通し1~2km程度、街中では約200メートル程度。そのため、中継する「SANアンテナ」を適切に配置する必要がありました。日本全国をカバーするには、PHSと同じ11万本必要です。
他企業の皆さんの協力が必要だと考えるようになったのはこのためです。アンテナの設置には多くの方の協力が必要です。店舗に置いてくれる小売業者さんなど、賛同する企業は増えてきていますが、現在全国で900本程度。まだまだ協力は必要です。

[写真]弊社の鈴木がオープンイノベーションについて語っています

鈴木(中電) 何か新しい、社会にインパクトのあるビジネスをやろうと思ったら、自社の技術やノウハウ、リソースだけでは難しい、という思いは中部電力も同じでした。この数年で電力需要が減少し、今後電気事業だけでは立ち行かなくなるという危機感が強くなってきました。そこで、2016年にカンパニー制になった際に、具体的に新規事業を立ち上げることをミッションにした部署ができましたが、いざ「新規事業を」と言ったところで、私達は電力しか分からない、ということに気付いたんです。IoT、AIといった言葉は飛び交いますが、具体化する技術もなければ、それに通じた企業とのコネクションもありません。確かに企業の皆さんとはお付き合いはありましたが、それはあくまでも電力の供給元と供給先という関係に過ぎず、ビジネスの話はしたこともありません。時折技術の持ち込みやビジネス提案もありましたが、それを実にするだけの力もなかったのが実情です。
だったら、新規事業を始めるために思い切って門戸を開けばいいじゃないか、と始めたのが「COE」なんです。個人的にも、電力会社としての社会インフラを活用しながら、地域に寄り添って社会課題解決に貢献する事業を起こしたいと考えており、そのために外部企業と連携の必要があると思っていたので、まさにぴったりの枠組みでした。

アイデアを加速するBusiness factory

[写真]対談中の二人。和やかな雰囲気で対談は行われました、

鈴木(中電) COEでは、中部電力のリソースを活用した新しいビジネスのアイデアを募集するBusiness factoryを開催しています。昨年は50件程の応募がありましたが、面白い提案も多くありました。1枚1枚思いが込められていて、そこには知らない世界がありました。私自身、とても勉強になったし、夢が広がりましたね。
一次は書類審査でしたが、選考のポイントは弊社とのシナジーだったと思います。「新規事業を」といっても、まったくかけ離れたところからいきなり始めるのは難しい。やはり、弊社のリソースやノウハウをうまく使って相互にメリットのある事業から始めるのが理想です。
その中で、加藤電機さんの提案は「ドンピシャ」と感じました。もちろん私一人が決めるものではなかったのですが、これは行けそうだと感じました。「人を守る」という明確なコンセプトがある。具体的なプロダクトもある。事業化が近い。そう思いました。

加藤 私としては、もともと弊社製品、技術を知ってもらい、評価してもらうことが一番の目的でしたから、審査に通ることはあまり期待していなかったんです。以前、似たようなイベントに招いてもらったものの、あまり大した成果もなかった経験もあったので、正直言ってBusiness factoryにも期待していなかった。でも、一次審査を過ぎてからがすごかったですね! まさかこんなことが!という経験をさせてもらいました。

鈴木(中電) 一次審査を通過した皆さんには、二次審査までにアイデアの深掘り、ビジネスプラン、事業化までのロードマップ、そしてプレゼンの仕方まで、ブラッシュアップしてもらったんですよね。弊社のリソースを知るスタッフが一緒に考え、お手伝いさせてもらいました。

加藤 私は大学時代からプレゼンはしてきたものの、「ピッチ」という言葉さえ知らないくらい、ビジネスプレゼンの現状を分かってなかったので、効果的なプレゼンの方法について教えてもらったのは良かったです。
しかし、何よりもマネタイズやビジネスとしてどう回すのかという、ビジネスモデルの組み立て方について、一緒に考えてもらったことは大きかった。良い技術は持っていても、ビジネスとして構築するのが下手というのは日本の中小企業によくあることで、それは弊社も同様です。以前、ユニクロの柳井会長兼社長にもSANフラワーを提案したのですが、「趣旨には賛同するし協力もしたいが、収益化できなければうまくいかないだろう」と指摘されたことがありました。今、ビジネスモデルとしては、SANアンテナの設置利用費を軸にしていますが、それだけでは、なかなか先がないことは薄々と感じていたところです。この先どうすれば事業として大きく成長させられるのか。今もそれは検討を続けています。まあ、私はBusiness factoryの趣旨も分かってなかったせいもありますが、メンタリングを受けるまで、そもそも電柱をSANアンテナの敷設場所にしようなんて思い付きもしなかったくらいで(苦笑)、至らないところはいっぱいある。しかし、電柱に設置できるなら、電源は取れるし、設置場所が高いので受信範囲も4倍程度広がります。それを教えられて、これはいけるとアイデアが加速していきますね。

鈴木(中部) そして、二次審査で絞り込まれた9社がファイナリストとして最終審査会に出場し、見事加藤電機さんが最優秀賞を獲得したわけなんですが、実は加藤電機を推していた私自身、ちょっとびっくりしました(笑)。行けそうだとは思っていましたが、うれしい驚きでした。

スピードが命。迅速な事業化を目指す

― 2018年6月から7月にかけて、名古屋市内の高齢者施設で、SANフラワーを使った実証実験が行われました。アクセラレータープログラムは多く開催されるようになったとはいえ、本当に実証実験を行うケースはまだ決して多くはありません。ましてやここまで早く行われることは稀。しかし、二人は「まだ遅い」と話しています。

2018年6月~7月に実施された実証実験の様子
電柱に設置した、電波を中継するアンテナ(SANアンテナ)

鈴木(中電) 私としては、とにかく早くビジネス、事業化したいという思いが強いです。実証実験だけではまだ分からない。それに、コンテストから本当に事業化していくことを示していかないと、優秀なスタートアップや事業家が来てくれないと思っています。社内調整が必要なことはありますが、上司が後押ししてくれているので、スピードを持って進められています。

加藤 現代は、技術的にはSFが現実化しているかのような世界です。そのイメージで加速していかないとビジネス展開は難しい。古い体質から脱却できない企業は、この先生き残るのは難しいんじゃないでしょうか。
机上の議論や検証よりも、まずやってみなければ何も先に進まないんです。SANフラワーも、よくGPSと比較されますが、GPSと比較してどっちがいいかなんて議論をしているよりも、まずスピード感を持ってローンチしていかないといつまで経っても進まない。

鈴木(中電) 1月の最終審査の後、本当は春先には実証実験を行いたかったんですよね。しかし、実際の開始は6月になってしまいました。もっと速く回していかないといけませんよね。実証実験では、まず、技術的な問題、費用的な問題を確認することが狙いでした。

加藤 もともとこのSANアンテナは室内に設置する仕様でした。屋外に設置する場合にどうなるか、その方法はどうしたら良いのかを考える必要もありました。

鈴木(中電) 対象となる施設をカバーするには4本のアンテナが必要でしたが、そのため3本の電柱を提供し、実証実験に臨みました。具体的には、取り付けるためのボックス、腕金具、電源の引き込み方などを設計、実装しました。最初に加藤電機さんの提案を見た時に、費用が問題になりそうだと感じたこともあり、設置や運用にかかる費用も検証しました。

加藤 あとは実際に使った皆さんの生の声ですね。SANフラワーは、半田市ですでに認知症高齢者を高精度で発見できた実績があります。しかし、施設の方に常時持ってもらって、その動きを追えるのかどうか、所持する人の負担はどうか、サポートする側の負担はどうかなどを詳しく見る必要がありました。

鈴木(中電) 事業化については、実証実験が終わった今も継続的に検討を進めています。まさにこれからが正念場と言えるでしょうね。詳しくはお話しできませんが、できるだけ早く事業化するのが目標です。

SANフラワーのガジェット一式。手前が受信装置の「SANレーダー」。左の小さな黒い端末が、電波を発信する「SANタグ」。これを人間が携帯する。白い筺体は、電波を中継する「SANアンテナ」。有効に機能するために十分なアンテナの数が必要になる

加藤 今、ビジネスモデルを一緒に組み立て直しているんです。もともとはSANアンテナの設置料・利用料と広告費をもとにした収益構造でしたが、今後はそうではないビジネスモデルが必要です。BtoBはもちろん、BtoCも視野に入れています。また、SANアンテナの設置が拡大すれば、別のアイデアも出てくるでしょう。今は子どもや高齢者の見守り、人命救助が目的ですが、もしかしたら、運送業界や交通機関でも利用できるかもしれません。僕らだけでは、こうした広い視野ではビジネスは考えられなかったでしょうね。

COEは「声」を聞いてくれる

[写真]COEパネルの前で笑顔の加藤社長と鈴木

加藤 とにかく、COE、そしてBusiness factoryは門戸が広く開かれていることが大きな特徴だと思います。大きい企業と連携しようと思っても門前払いが当たり前。「間に合ってます」でおしまいですよ。そもそも、中小企業には大企業にアプローチするパワーに欠けているのが普通です。それでも、かつてに比べれば、ホームページなどを通じて中小企業側から情報発信はできるようになりましたが、こちらの思いを汲み取って「一緒に何かやりましょう」ということはまずあり得ない。OEMとして「こういう製品を作ってくれ」というだけの仕事です。
それに対して、COEは、文字通りこちらの「声」を聞いてくれるのです。この製品を取り上げて、僕の持っている思いに耳を傾けてくれる。そのうえで一緒にビジネス化しようとしてくれているし、社会貢献にも意識がある。中小企業は、技術や製品持っていても、うまく売れないし使いこなせないことが多いんです。まさに宝の持ち腐れですよ。COEはその宝をうまく活用してくれる。そんな気がします。
アクセラレーションプログラムに参加するのはこれが初めてなんですが、ここまで一緒にやってくれるのは珍しいんじゃないですか。こういう新規事業やスタートアップを対象に、支援やインキュベーション自体を商売にしている会社もあるわけで、過去に痛い目にも遭ったことがありました。COEみたいなのは貴重ですよ。

鈴木(中電) 中部電力としても、Business factoryは他社とのオープンイノベーションを実現する必須のインターフェイスだと思っています。電力会社の未来を考えると、もっと危機感を強くもって、他社との連携を強化していかないといけません。
現在、Business factory 2018のエントリーを受け付けていますが、社としても事業化案件をより多く取得したいと考えていますので、多くの皆さんに応募してほしいです。対象はベンチャー、スタートアップに限定していません。大企業でも中小企業でも、一緒にビジネスができると感じた人はぜひ応募してください。
期待しているのは、事業化の意志を明確に持っている人。「できたらいいな」くらいの人では、事業化は難しい。ビジネスにハードルはつきもので、新規事業には思いがけない壁が必ず立ちはだかるものです。それを超えることができるのは、強い意志を持った人だけ。そういう意志、思いをもった人とご一緒したいですね。

加藤 今回参加して分かったのは、最後まで残っている企業というのは、誰もが収益以外の目的、ポイントを持っていることでした。つまり「夢」の部分です。その夢や熱い思いを持ち、見える化し、目標を明確にしなければ、周囲の賛同も得られませんし、事業化は難しいでしょう。プレゼンでも、思いが強すぎるあまりにマイクが音割れしちゃう人がいましたが、そういう思いこそが大事です。
もし、何か技術やアイデアを持っていて、ビジネス化したいと思っているのなら、まず手を挙げてほしいですね。それがなければ何も始まらない。それが良いか悪いかは判断してくれますから。門戸は広く開かれている。声もちゃんと聞いてくれる。とにかくここに飛び込んできてほしいです。私も、別のプランでまたエントリーしたいくらいです(笑)。